息子が最後の言葉を失ったのは、7歳のとき。
専門家も稀にしか見ないという激烈な発達退行の末、
花開きかけていた息子の知能は最重度まで低下し、
二度と知的な能力や言葉は復活することはないと
医師には宣告を受けました。
息子は、最重度の知的障がいと自閉症と診断されていましたが、
3年前、その上にさらに「クライネ・レビン症候群」という、
これまた100万人に1人という非常に稀な睡眠障害と診断されました。
息子の場合、毎月、半月くらいは過眠期に入り、
眠ることが1日の大半を閉める(最長22時間くらい)日を過ごさざるをえない状態になります。
そんな息子は、ピアノの音が小さい頃から好きでした。
声楽家だった私が、息子の障がいをきっかけに音楽療法の道に進み、
様々な楽器を手元に置くようになっても、
ピアノが一番好きなことには変わりありませんでした。
今、息子は30歳。
私がピアノのレッスンをしているわけではありませんが、
自分からピアノに触れたいと、音楽室にやってくる時だけ、
月に数回、3〜5分間くらい、
私と一緒にピアノを奏でます。
「奏でる」と申しましても、
決して「弾ける」というほどではありません。
昨年は、年末までに「よろこびの歌」(ベートーベン)のメロディを、
どうにか一緒に両手で奏でることができるようになりました。
彼が全身全霊で、私の弾く音を聴き、手を見て、
奏でるピアノの音は、
彼の言葉そのもののように私には響きます。
その日、その日の気持ちが、音に表れているから。
息子は、最重度の障がいと病がありますが、
ピアノによって、好きな音によって、
失ってしまった言葉の代わりに、
自分の気持ちを表現することがわずかながらできるようになってきました。
息子だけではありません。
どんなに障がいが重くても、病気があっても、
どの子にも、どの人にも、
音楽は可能性の扉を開きます。
私はそう信じています。
私たち親子の演奏の様子の動画はこちら⇩からご覧ください。
https://youtu.be/AEfnOv48rU8?si=-Quu59u6YBuoFnb6